イヌに噛まれたとでも思えたなら

赤音さんの友人夢主(平和軸) 高校二年の夏、親友である赤音の家で私は何故か赤音の弟である青宗くんにキスされていた。 ふにっと柔らかい感触、長い綺麗なまつ毛が微かに私の瞼に当たる。

「なんで、急に……」

口に手を当てて青宗くんを見返す。すると、青宗くんは首をかしげる。

「ん、なんでだろ? なんとなく」
「な、なんとなくかあ……」

小6男子とのキスなんて少しの経験でもあればなんでもない事だと笑って、誤魔化す事だって出来たかもしれないのに。

「えっと………」

ミーンミーンとセミの鳴き声だけが聞こえる。冷房が効いている中、私はツーっと汗をかいた。

「……さん?」

青宗君が私の名前を呼ぶ、その声がまるで私の心臓のとどめを刺すように頭に響いた。

「わ、私帰るね!!」

発した言葉と同時に急いで立ち上がり、青宗くんを見る事もなく階段を降りて一階でおやつを用意してくれていた赤音に

「ご、ごめん! 急に体調悪くなった! 帰るね!」

と言い放って赤音の家から出て行った。
気が付くと自分の家に帰っていて部屋で一人でうずくまる。

「な、なんだったの…あれ……」

キスどころか恋愛の経験なんてこれぽっちも無かった、あれが私のファーストキスだった。

***

大学二年生の秋。
すっかりあの時のことは忘れて、私は学生生活を楽しんでいる。

そりゃあ当時はびっくりしたし、親友の赤音には話せないしでパニックになってたけど。ちょうどその時に見たファッション誌の相談コーナーに

『小学生の男の子にキスされちゃってどうしたらいいの;;(匿名希望・高校二年生)』

と私と似たような状況の話が載っていたのを見て。
同じだ!と食い入るように恋愛マスターと謳っているお姉さんの回答を見ると……。

『所詮小学生なんておこちゃま!犬に嚙まれたとでも思いなさ~い★』

と独特の口調でアドバイスしていて妙に納得してしまった。
そっか犬に噛まれたって思ったらキスされたうちに入らない。
そんな私にとって有益すぎる回答に

「ありがとうございます! 犬に嚙まれたと思って忘れます!」

と雑誌に向かって拝み、忘れることにしたのだ―――


「ねー……ねぇってば!! 、聞いてる?」

大学で出会った友人に話しかけられハッとする。

「え、あっごめんごめん、ちょっと考え事ってか昔の事思い出してたっていうか」
「昔?」

安くて気軽に入れる居酒屋でレモンサワーを飲んでおつまみを食べながら話す。

「あー、高校生の時小学生の男の子に突然キスされたことがあって……犬に嚙まれたって思えばいいかな~みたいな」
「え、まじで! どんな子??」
「どんな子って、友達の弟だよ」
「そういう事じゃなくって! こう、かっこいいとか、かわいいとかあるじゃん」

所詮昔の思い出だし、何でもない事のように話したはずが友人は思ってたより食いついてきた。

「いや、相手小学生だよ? かっこいいとか、かわいい以前っていうか……」

しかも理由が「なんとなく」って言われてしまってるし。

「ええ、でもさーその時は小学生だけどさ、今どうなってるか分かんないじゃん! めっちゃイケメンになってるかもよ~?」
「ん~まあそうねー……」

あのキス以来青宗君とは極力関わらない様にしてきたから彼がどんな風になっているかなんてあまり知らない。 知っている事と言えば姉の赤音いわく「うちの弟最近不良になっちゃって~」 と、よくある思春期の男の子あるあるな感じの話を聞いたくらいだ。

「まあ、そんな昔の話は置いといて、来週の合コン本当に来てくれるんだよね? !」
「もちろん行く行く!!」
「ホント今まで誘っても来てくれなかったのに、彼氏作る気なったの?」

友達はそう言いながら私の肩をゆする。確かに今まで合コンとかそういうノリの集まりは好んで参加してこなかった。

「最近まわりが彼氏出来てさ、ちょっとは焦るっていうか……」

なんとも消極的な理由だなと自分でも思う、それでも友達はうんうん頷いてくれる。

「わかる! 皆最近付き合い悪いもんね、私も元カレと別れてからもう半年経ってるのに、良い人に出会えてないし……」

そこから友人は元カレの話や、過去の失恋話を散々して私はひたすらに相槌を打っていた、私は彼氏が出来たことがないどころか好きな人すらできたことが無い。
だから友達が失敗したと話す恋愛話はどこか羨ましくもあった。
赤音も最近彼氏が出来たと私に嬉しそうに報告してきたし……本当、相手どんな人なんだろう?赤音って昔からモテる割には全然男に興味なさそうな感じだったし。
今度会うときに紹介してくれるって言ってたから、早く赤音の恋人を見てみたいなあ、と思いながらレモンサワーを飲み干した。
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